ミヤ、修法を行う事 ■■■01■

おばちゃんが病に伏せっているのは、郷の皆の知るところで、突然現れた験者のためか、家の前に畑仕事を中断して来たのだろう、幾人も心配そうな表情を浮かべて験者一行を見ている。無理もない、おばちゃんの修法は今回が初めてと言うわけでもないから。何人かは、クモさんの容姿に幾許かの期待を抱いてるような表情をしてるものの、希望に満ちた目をしてる人はいない。またか、とか、止めといた方がいいって表情をしてるのが大半。
その人集りから一歩進み出るようにしてお辞儀をしたのは、戸野の郷長である従兄弟、九郎兄さん。ようこそ、お出でくださいました、などと当たり障りのない挨拶を述べて、家の中に案内する。付いて行こうとして、ふと玄三の視線に気付く。
「一体、何があった?」
「何って?」
「十郎坊ちゃんとあの験者とヒナちゃんとに決まってるだろう?まさか十郎坊ちゃんが見境もなく、あの験者に喧嘩を?」
「違うよ。何時ものように私が十郎に絡まれて、困ってる風に見えたから、あの方が助けに入ってくれたみたい」
「それで、修法をするしないと?」
「それは、クスリを届けるって…あ、私、クスリを届けに来たの」
「そうか、では、話は後でゆっくり聞かせてもらうよ」
「うん。ごめんね、心配かけて」
いいえ、という風に微笑みながら首を振った玄三を後に、私は、九郎兄さん達の後に続く。 玄三は、叔父の乳兄弟のようなもので、早くに母親を亡くし、叔父さんの家で育てられた。 十郎の世話役でもあって、その所為か、十郎もあまり逆らう事ができない。私にとっても、二人目のお父さんのような存在で、最近、度が過ぎる十郎の振る舞いを心配してるみたい。

足早におばちゃんのいる部屋へ向かうと、修法の準備をする段だったようで、部屋を出ようとする九郎兄さんがいた。
「ヒナ、ちょうど良いところに。クスリが届いたんだって?」
「うん」
「クモ殿が修法の最中にでも、お袋に飲ましてくださるそうだ」
「え?」
知らない名前に視線を走らせると、先ほどの験者と目が合う。 手を差し出されるまま、クスリの入った紙袋を渡す。
「湯に溶かせば良いんだよね?」
「はい。あの、でも、今から修法をされるのでは?」
「修法も、クスリも、病を治すのに良いとされている事だし、同時に行ったら相乗効果があるかもしれないとか思うんだけど。ほら、一緒にしちゃいけないなんて、聞いたことないしね」
「そう言うもの、ですか?」
「何事も信じる事が大切だと思うよ。クスリ、ありがとう。大事に使わせてもらう」
にこりとこちらに微笑んで礼を言い、背を向けて、連れの人に準備を始める旨を伝えている彼を食い入るように見つめてしまった。修法とクスリを一緒に?有り難すぎて、ちょっと勿体無い気もするけど、確かに合理的かも。
「あの、私も、お手伝いします。何でも言いつけてください」
用意をしようと言う彼の声に応えたのは、先ほど玄三と一緒にいた荒法師風の男性一人きりで、他の同行人は緊張した面持ちで廊下に立ったままだったから、思わず、でしゃばってしまう。だから、驚いたようにしてこちらを振り返った二人に思わず尻込みをする。
「いや、気遣いはありがたいけど、シンタンで会得された大師直伝の秘儀だから、他人の目に触れさせてはいけないことになってるんだ。身とこちらのマヤと、二人で行わせて貰いたい」
「そう…ですか」
「…そうだな。清水は近くにあるかな?」
「はい。丘向こうに」
「では、それを瓶に5つ頼める?女子の手では辛いかもしれないけど」
「大丈夫です。行ってきます」

次≫≫■■■

inserted by FC2 system