ミヤ、修法を行う事4 ■■■04■

そして、クモさんは約束通り、次の朝、おばちゃんに会わせる事を許してくれた。
病み上がりだなんて信じられないくらいおばちゃんの表情は違って、その瞳には、私の大好きな、安心できる色が戻ってきていた。

もう平気だ、なんておばちゃんが言ったためなのか、病人を気遣う心が郷人に足りてなかったのか、見る見る間に部屋いっぱいになる人たちに押されるようにして、私は部屋から追い出されてしまう。クモさんも同じだったようで、困ったように、でも嬉しそうに、微笑を浮かべてくれた。
「サワ殿は、よほど郷の人たちに慕われているんだね」
「ええ。本当にありがとうございます。何て言ったら、何をしたら良いのか」
そこまで言って、固まった。
何をしたら良いのか、わからないはずないじゃないか、と冷や汗が背筋を伝う。
「あの、すぐに落ち着ける部屋に案内します。朝ごはんもまだでしたよね」
修法をしてもらって、しかもその験はあらたかだったと言うのに、白湯でも勧めるどころか、部屋からも追い出してしまっている。験者さまに対する扱いとしては、かなり最低な部類だと、かなり恐縮しながら、クモさんを窺って見る。
「じゃぁ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
裏も表もないような、にっこりとした笑顔で返される。
私の験者像を裏切るくらい、どうやらクモさんは寛大な心の持ち主のようだった。とは言え、簡単に落ち着ける場所と言っても、郷中の人がこの家にいるのだから、早々そんな場所が見つかるわけでもない、どうしようか焦って周りを見回す。
「良かったら、ここに落ち着かせてもらって構わないかな。日当たりが良さそうだ」
そう言ってクモさんが示したのは、ただの簀の子縁。
…明らかに気を使われている。
「ここなら、見舞いに訪れる者たちの邪魔にもならないだろうし」
腰を下ろし、満足げに言われて、ますます頭が上がらなくなった。

なんとか少しでも汚名を返上しようと、食事を用意してきますと逃げるように、台所に向かう。何か簡単に作れるものあったかしら、と台所を見ると玄三がいた。
「玄三、何してるの?」
「ここくらいしか、空いてる場所がなかったんだ」
租に結びつける木簡を準備しているらしく、狭い炊事場の机は木札と麻紐が散乱している。どうやら玄三も追い出された口らしい。
「朝飯なら、竈にまだいくらか残っているぞ」
釜に残ったごはんを握り、申し訳程度に汁を椀に盛る。どうして昨日の内にちゃんと用意をしておかなかったのか、浮かれすぎていた自分を呪いつつ、持ち上げようとした盆を取り上げたのは、玄三で、どういうつもりかと問う前に玄三が口を開く。
「クモ殿に差し上げるんだろう?俺も礼を申し上げたいんだ」
案の定、クモ殿を案内した場所について玄三に小言を言われて、じゃぁ他にどこがあったのかと逆切れのように口を尖らせると、玄三はそれもそうだなと苦笑いした。

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