戦国の花嫁■■■亡国の紅梅 湖国の菖蒲2−1■


あやめ殿との祝言の一連が一通り済んだ頃のある日の昼下がり、お義母さまの許で花を生け楽しんでいる所だった。
水と土が豊かなのだろうか、それもと、花の京に近いからなのか、並べられている花の種類は多く、どれも大きくて、美しいから、私はどう生けたものかと考えてしまう。見慣れぬ花もあり、感心するばかりではあったが、一つを手に取り、剣山に差すと、折から、あくびが出てしまった。
「随分お疲れのようですね?」
「…すみません」
袖の裏で欠伸をしてしまったのがばれたのだろう。お義母さまに言われて恐縮する。
「いえ、良いのです。私が留意すれば良いことでした」
え?留意って何を?と視線をあげる。
「私もここへ嫁した端は、そのように袖で隠そうとしたものです」
「あ…の」
「朝の挨拶は遅くても構わないわ。午睡も遠慮はいりません。しっかり休んでおかないと、身が持ちませんからね」
「ですが」
「疲れを滲ませるそなたとは対照的に、護時は上機嫌で弓まで持ち出しておるそうだ。我が子ながら、加減の知らぬ振る舞いには、少し困ります」
「いえ、護時殿は私を気遣ってくださってます」
「あら、仲の良いこと。春には孫に会えるかしら?」
「…ご…ご期待に添えるよう精進します」
にんまりと笑うお義母さまに、私は赤面するしかない。
欠伸一つでそんな風に思われるなんて…。
「さぁさ、善は急げよ。もうお下がりなさい」
と言うお義母さまの言葉に、私は素直に頷くしかなかった。
「奥方様は、まだまだ娘ですねぇ」
そんな風に笑う乳母のトワを睨みつける。
「だって、お相手は、あやめ殿の母さまなのよ?なんだか…申し訳なくなるわ」
「北の方さまも、きっと嬉しいのだと思いますよ」
「そうかしら?」
「えぇ、えぇ。折角お許しも頂いたのですから、少しお休みなさいませ」
「でも…」
「花嫁の初仕事は、子を授かることですよ」
「そんな明け透けもない言い方」
「本当の事ですよ。お家に慣れるより、大事なことにございます」
「それはそうかもしれないけど…」
「本当は眠くて仕方ないのでしょう?無理は子によくありませんよ」
「気が早いわよ」
「そんな事ありませんよ。あれだけ大切にされておいでなのです、北の方さまの仰ることも強ち間違いではないかもしれませんよ」
「…お前まで、そのような」
呆れて言葉に詰まると、また欠伸がでると、トワは満足そうに微笑んだ。
「お方様、どうぞ床は整えてございます」
そう言って、促されて、頷かないでいられるほど、元気でもなかった。

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