戦国の花嫁■■■亡国の紅梅 湖国の菖蒲07■


視線を向けた先にいたのは、驚いた事に、稚児姿をした少年だった。
化粧をしているのか、ほんのりと頬が赤みを帯び、黒い瞳をさらに美しくさせている。
噂に聞く、高月殿の花一揆だろうか?

「そもそも、高月殿のご厚意により、柏原と余呉を結び付けるために此度の運びになったわけですし、羽生殿にしても、その意図は未だ変わっていないのでは?」
「あやめ、そなたは、高月殿からそうと?」
「はっきりと口に出されたわけではありませんでしたが」
「だが、どうする?当の行護はもういないんだぞ?」
「柏原と余呉を結ぶのに、何があっても兄者でなくてはならないというわけでもないでしょう?」
「それはそうだが…うちには、輿入れできる娘がいないだろう?」
姿から判断してはいけないかもしれないけど…このあやめと言う少年は、とても理知的な人だと思った。稚児衣装とは、裏腹に、言うことは、まるで大人のようだ。
高月殿がどうとか言っていたし、花一揆なんだろう。
花の京に、花一揆ありと知れた、高月殿の小姓達は、かつて京を彩った白拍子の如く宴を華やかにし、床では高月殿を悦ばせ、更に戦場では武功高くその名を轟かせると聞く。
「父上、僕をお忘れですか?このような姿をしておりますが、年が明ければ、13になります」
「13か」
「はい。父上が初陣を迎えられた歳と伺っています」
「あぁ。初陣の次の戦で、わしは功名を手にして、元服することになり、烏帽子親には高月殿だったのだ。そうか…13か。去年の行護の元服でも感じたものだが…子とは、成長するものなのだな」
「これも父上のお陰。兄者の分まで、父上にお仕えいたします」
「そうか…」
「そして、父上は13の歳に、成人され、母上を娶られたと伺っています」
「あぁ、そうだったな」
「柏原家唯一、余呉と姻戚関係を結べるのは、及ばすながら、僕しかいないのではないのでしょうか?」
「あやめが…?何を馬鹿なことを。そなたはまだ元服さえ済ましていないのだぞ?」
「兄者のように、15まで待てと?そのような事を言っては、高月殿の期待を裏切りかねません」
「それもそうだが…、行護が亡くなった今では、あやめ、そなたがわしの嫡子だ。そう易々、嫁を決めるわけにも…順序立てて、それに見合った家の…」
「高月殿が薦め、兄者の嫁にと父上も見込んだ姫では、駄目と言うんですか?」
「いや、そう言うことではない。…そうだ、13になるのだ、元服し妻をとっても構わない。しかし、栗谷の姫は、16の行護にと選んだ姫。歳が違いすぎるのは、だな」
お義父さまの慌てぶりに、私は、内心同情する。
確かに、18の私じゃ、あやめ殿に申し訳ないような気がする。しかも、年が明けて13なのだから、つまり、半周りも違う。二つ下と言われた彼に比べ、心構えが更に増えそうだ。
「年など…母上も、4つ程上なのではないのですか?」
「それは、そうだが…」
「僕にも、文を送ってよこすほどの事をみすみすなくしてしまう程、兄者と僕は疎遠ではありません」
「あやめ、そなたはそれで良いのか?」
「はい。若輩ではありますが、このあやめ、栗谷の姫を娶る覚悟をいたしております。許可して頂けますか?」
「立場は違えど、鬼敦賀と讃えられた栗谷殿ほどの荒武者には憧れたものだ。今となっては、栗谷殿の忘れ形見でもある姫が恙なく暮らせるよう取り計らうのも、何かの縁なのかもしれぬな。…栗谷殿の姫よ。この顛末…承諾頂けるだろうかな?」
その言葉に、一瞬にして座の視線が私に集まった。

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