戦国の花嫁■■■天下人の種04■


でも、女子を知らぬわけでもなかろうに、どうしてこのような態度を取るのだろう。
他の女子と違う点が、私にあるのだろうか。
考えても、埒が明かない。以心伝心なんて、乳母か、勤めの久しい女中くらいのものだ。こんな会ってすぐの男子の考える事なんて、分かるわけがない。私が天下人を産むために選んだ男子は、私と同じ考えを持っていて、自然と分かり合い、事が上手く運んでいくと、どうして当たり前のように考えたりしたのだろう。
知り合ったら、まず、お互いの人となりを探るのは、定石だと言うのに、それを失念するなんて。
しかし、こんな間怠っこしい手順の、なんて無意味な事か。そんなの打ち捨てるか、放り投げるかして、ただ殿方の持つ本能に従って、私を抱けばいいのに!そして、私の胎にたっぷりと子種を注げばいい。その一つが、天下人の種となり、やがて、私に根付くのだ。
なんて素敵な事かしら。何度想像しても、良いものだ。
そんな事を思いながら、私の方は、視線を一度も外す事なく、殿を見つめた。殿も、私の視線を感じたのだろう、チラ見は気まずいと思ったのか、瞳をぐるりと回すと、きちんと私を見る。
「長旅で疲れているだろうし、今夜は、もう休むといいよ」
そもそもの始まりが、この言葉で始まったのであったのなら、まあ!がつがつしてない、お優しい方なのね!!本当は、初日から、たっぷり仕込んで欲しいところだけれど、殿のお心は無下にできないから、今夜は早めに休んで、明日からのために、鋭気を養う事に専念します!とか思って、三指着いて、お休みの挨拶をして、次の朝、って事になったんだろうけれど、殿が寝所に入って来てした事と言えば、無視って床に就く、こっちが誘えばただ驚き、何か意味深な事を言い、極めつけに、かなり挙動不審に振る舞ったのだ。そんな相手に、その状態で、大人しく引き下がっては、後に禍根を残すと本能が訴える。何より、やる事は、さっさと済ませておいた方がいいのは、目に見えている。
「お気遣いありがとうございます。なれど、私は平気です。何しろ…こうして迎える初夜なのです。ですから…」
さすがに、皆まで言わずとも、分かるだろうと、言葉を曖昧にした。
外された視線が、再び重なる。
殿は、一際、瞳の奥の奥まで見透かすように、じっと力強く見つめた後、不満そうな、訝しむようなしかめっ面をして、大きなため息を一つ吐いた。
「だから、夫婦の勤め?生憎だけど、今、僕にそんなつもりはないから」
何の感情も宿さず、深い深更の瞳の色を変える事もなく、低くそう告げると、殿はもう一度、床の中に入り込んだ。
再び、沈黙が訪れる。
しばらくは、言われたことの意味が分からなかった。
そんなつもりはない?
それは、どういう意味だ。
殿?と、問いかけるが、向けられた背中は、沈黙を保った。これ以上、話をするつもりはないらしい。
だからと言って、先程と同じようにして、私から仕向けてみても、殿にその気がないのだ、結果は同じだろう。なにしろ、その気にさせてみせる、なんて、想定外だ。

まあいい、先は長い。
焦っても、獲物は手に入らない。
どう考えても、後手に回った気がするけれど、良い手筋が思い浮かぶはずもなく、動揺した心を落ち着かせるようにして、私も眠りについた。

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