戦国の花嫁■■■天下人の種10■


昼中の殿は、夜の殿とは違って、親切で優しかった。
お義母様への毎朝の挨拶にしても、表面上は、私を大切にしているように振る舞ってくれるし、私が何か声を掛ければ、丁寧にとまではいかないけれど、それなりに応じてくれる。
それに、一度なんて、屋敷の奥で自分の居場所を見失った私を探しに来てくれたりもした。殿は、夕餉になっても一向に姿を見せない私を探してくれていたのだろう、少し慌てた様子で、私の姿を認めると、小走りに駆け寄ってくれた。
人気がないわけではなかったけれど、下仕えの者に場所を訪ねるなど、恥としか思えず、あの時は、本当に困り果てていたから、殿の登場に少し安心した。
その後、一緒になって、屋敷中を隈無く、分かりやすく案内までしてくれたし。
つまり、昼中の殿は、十二分に良い夫であった。

なのに、夜になると、態度を豹変させる。
あの日約束した通りに、放っておいてくれ、と言わんばかりで、口をきこうともしないし、視線すら合わせようとしない。私の存在など、完全に無視して、すぐ横になってしまう。
約束の日まで、あと何夜あるのかしら?皆目見当も付かない。
そもそも、なんで、祝言まで挙げたのに、子種をくれないのだろう?
会話とか、お愛想とか、そんなのはなくてもいい。男子なんて、皆、女子ほど、会話や空気を楽しもうとは思ってやしないだろうから。それに、そんな事は、武家の夫婦に必要な事とも思えなかったから、さほど気にはならなかったけれど、子種の事だけは、一歩も譲りたくはなかった。だって、その為に、私は、今、ここにいるのだもの。
無視されて、会話もなければ、殿の考えてる事など分かるはずもなかったが、どうにもこうにも、私に触れないでいる理由が思い当たらない。
会ってからの殿の様子を慮る。
特に、気になる点は、思い当たらない。

…よもや、殿は、男子がお好きなのだろうか?
何しろ、この屋敷は、女子より男子の方が、多いようだし…。
それに、異母兄の輝宗殿は、男子も嗜しなまれているようだし、その弟である殿も、その影響で…とは考えられない事でもない。
殿は、あの顔だ。きっと受け手の側だろう。抱く気はなくても、抱かれる気はあるかもしれない。勝手にそう決めつける。
では、殿に抱く気がないのなら、私が攻め手に回われば、何とかなるだろうか?
殿方の肌を知らない私が、知るわけもないけれど、お尻の穴も、密壺も、穴は穴なわけだし、目を閉じていれば、どこに入ってるかなんて、さほど気にはならないのではないだろうか?
そんな風に、殿を説得してみたら、殿は頷いてくれるだろうか?
…。

この屋敷に来てから、馬鹿な事ばかり、考えるようになった気がする。
ため息を何とか、抑え込んだ。

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