戦国の花嫁■■■天下人の種21■


殿が好き。
そう思って、周りを見てみると、思った以上に敵が多くて、驚いた。
いわゆる、恋敵と言うやつだ。
なんと驚いた事に、若い娘は、皆一様に、殿をうっとりとして見つめ、熱い視線を送っていたのだった。
今まで気付かなかった方が、おかしかったのかもしれない。思えば、殿と一緒に居ると、年頃の娘の出入りが多いなあと、ぼんやり感じてはいた。
何しろ、この屋敷は、女子の数が圧倒的に少ない。
私がここに着いて初めに確認されたのは、傍仕えの人数についてであったし。嫁入りに連れてきたのは、乳母と私の考えをよくよく理解してくれている者の二人だった。余呉の花嫁と言う事で、もっとずらっと連れてくると思われていたらしく、その後の慌てように、少し申し訳ない気持ちになった。
でも、余呉に仕えたい女子達を連れるのは、お互いのためとは思えなかった。私は全て承知で、と言うより、自らの意志でここに来ようと思ったわけだけれど、彼女達はあの華やかな屋敷から出たいなどとは決して思わないと感じたのだ。豊かなウミの国で生まれた彼女達は、京に程近いせいか、雅な事を好み、そして、新しい物好きであった。お父様にどんな恐ろしい噂があったとしても、それでも、お父様の作り上げた奇異とも言える屋敷に勤めたいと言う好奇心が勝るそんな彼女達は、きっとこの屋敷を気に入らない。旧家と聞いていたので、それなりに年季の入った屋敷だろうとは思っていたけれど、その私の予想の上を行く程だったし。だから、これが正解だったのだと思っている。
だから、急場しのぎで、私のところには、私に歳が近いものを各部署から選って働いてもらっている状況。そう言えば、すぐにでも外から人を入れるからって言ってたけど、どうなったのかしら?

しかしながら、この屋敷にいる娘達が、何を思い、どんな瞳をして、殿を見ているかなんて、その時の私にとっては、どうでもよかったから、気付くはずもなかった。
当の本人、殿はと言うと、気付いているのかいないのか、清々しいくらいの無視っぷり。いや、意識にすら入ってないんじゃないかと思うほどの自然さだった。
普通の男子だったら、こんな状況、舞い上がって、小躍りするんじゃないかしら?
自分の思い人でなければ、他のどんな女子の事も気にならないから?結構、一途な人なのかもしれないなと思う。
そんな事を考えてしまい、小さな思いがちくりと痛んだ。どうにもならないし、どうしようとも思ってないのに、心って言うのは、当の本人でさえも、上手く御する事ができないものらしい。

そして、なにより、私に向ける視線のきつさに驚いた。
まあ、堂々と、私に敵意を向けるのは、時勢を知らないか、物事をよく理解してない、年端もいかない女子とか田舎丸出しの女子とか、よほど自分に自信のある女子くらいのものだったけど。
私がどこから嫁いで来たか分かっている者は、心の内はどうであれ、平静ににこやかに振る舞った。とは言え、余呉の家を離れた私は、もはや虎の威を借る狐でしかないのだけれど、余呉の娘と言う肩書きは、なかなかに効果絶大らしかった。
そうでなかったら、一服盛られているかもしれないな。
お父様に感謝する。

しかしながら、私にそんな視線を向けたり、そんな感情を抱いたところで、肩透かしもいいところなのに。
一応会話はするけど、夫婦らしい事なんて、一切ないから。子種を注がれるどころか、肌の触れ合いすらないから。妬まれたり、羨ましがられたりする、そんな立場では、全くないから。

なんか、自分が惨めに思えてきた。

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