戦国の花嫁■■■天下人の種26■


「ねえ、殿?そのお言葉が真であるのならば、本当に、嫁いで良かったと、私に思わせてください」
その言葉にどきりとして、妻の顔を見る。
栗色の瞳が、見たの事もないような妖しい色を宿して、こちらを見ている。
抱きたいと自覚はしたものの、妻に先を越されて、言葉を無くして、ただ見つめるばかりの僕に、妻は、にこりと笑みを深くして、立ち上がる。それを僕はただただ見つめた。
それから、じゅっと炎が燃え尽きる音がして、辺りが暗闇に包まれた。
「なんで、消すの?!」
思わぬ展開に、慌てるようにして、尋ねる。
少し間が空く。
ちょっと強く言いすぎただろうか?いや、これしきの事で怯えるような妻ではないはずだ。
「恥ずかしいのです。お許しください」
なんとも可愛い事を言うじゃないか、と一瞬思うが、よく考えれば、その声はいつも通りで、しっかりとはっきりとしていて、全然恥じ入っているとも思えない声だった。
さすがは、御館さまの五の姫だ。
しかし、ぼんやりと障子を染める月明かりは、なんとも心許なかった。
どうしよう。こんな暗闇で、あんな事やそんな事を致せる自信がない。そもそも、どこから触れれば良いんだ?
…全く、分かる気がしない。
一方、妻はと言えば、動揺する僕の事なんかお構い無しに、夜目が利いてるのかってくらいしっかりとした足取りで、僕のもとに来ると、何の断りもなしに、胡座の上に乗っかった。悲鳴は、男の意地で、飲み込んだ。
「殿」
しゃなり、と音が聞こえるんじゃないかってくらいのしなやかな動きで、小さな頭が、僕の胸に寄りかかる。 ぴたりと涙が止んだ。
…。
よし。なんだ。とりあえず、触れてみよう。そうすれば、自覚した男の本能ってやつが魅惑の境地に誘ってくれるに違いない。うん。
そう思って、緊張でガチガチで、ぐっと握っていた手の力をなんとか抜いて、まさに今、妻をぐっと抱き寄せようとした時だった。
一瞬にして、僕は石になった。
思いも描いてなかった場所が、そっと握られたのだ。いや、そっと触れられた、それくらいの強さだった。そうか、暗闇でよく見えないから、誤って、触れてしまっただけなんだなと無理矢理納得させて、石化を解こうとするが、さらに石化は深まった。もう人には戻れないかも。

え?え?奥さん、本当に初めてなんだよね?恥ずかしいんだよね?何も知らない清らかな乙女なんだよね?!
何、この手つき!
前、触ってもらった時の比じゃないよ。
まあ、前は、本当に、本当に、ほんの一瞬だったけどさ。
そもそも、なんで、ここからなのさ!
「も…やめっ」
何とも情けない声を出して、僕の何を自由にしてる妻の手を掴む。
ただでさえ、祝言のあの夜から、眠れてないし、悶々とするし、何より溜まっているのだ。戦場でだって、こんなに切羽詰まる事はなかった。
まして、漸く迎える本当の初夜なんだ、手なんかで、果ててたまるか。
「お気に召しませんでしたか?」
少し寂しそうな声だったけど、やはりいつもと変わらない落ち着いた声だった。
こんな興奮してるの僕だけなの?なんでそんなすましてられるのさ!
…ちょっと萎える。
「いや、も…う、十分だから」
「そうですか」
もう一度、掌で転がすようにして、僕を弄んで、妻は手を離した。
僕の妻は、魔性の手をお持ちのようだ。気を付けねば、子種だけでなく、精力全てを持っていかれそうな気がした。
本当に、種馬ではないんだよね?
そう思うものの、それを確認する勇気はない。

しかし、トヨと現実の世界で、具体的に致すなんて、振り替えれば考えた事がなかった上、まして他の女子を寄せ付けても来なかったから、困った事に、依然として、全く何をどうして良いのかさっぱり分からなかった。いや、考えた事はままあるけれど、この今の状況とあまりにも乖離しすぎで、臨機応変に振る舞えるほど、色んな妄想…想定をしてたわけでもないし、実践経験もなかったから、往年の抱きたいのに抱けない僕がでしゃばったり、意志とか、衝動とか、欲とか、皆ない交ぜになって、凄まじく僕の思考は混乱する。
しかし、そんな中、何となく、小耳に挟んだ事を、焦る思考の中、思い出す。
濡らさないと、女は良くないらしい、とか言ってたっけ?特に、生娘の穴は、きつく締まっているから、丹念に解してやらないと、暴れて面倒だ、だっけ?
挿れる場所の位置は…おおよそ分かる。手で探れば、探し当てられるだろう。
右手で、袂をそっと持ち上げ、わたわたと落ち着きなく手をさ迷わせ、やっとそこらしい場所を見つけ、そっと触れてみる。
乾燥しているってわけでもなさそうだけど、濡れていると言っていいほどとは到底思えなかった。
あっ、と小さな声がする。
わずかに指先を震わせ、ぎゅっと僕の衣を握りしめている。
どうやら、ここで合っているらしい。
濡ら…せるのかな?いや、濡らすしかない。
恐る恐る、中へと指を入れてみようとしたけれど、全然入らない。あれ?本当にここ、なのかな?違う?いや、でも、ここ…うん、行き止まりってわけではないから、入りそうだな。これが、所謂、濡れてない状態なんだろう。
でも、どう考えても、自分のそれが入る場所とは思えない。一般的な締まり具合ってのを僕は知らなかったけど、男を知らない乙女だと言うのは本当らしい。先程までの落ち着き払った雰囲気は、そこにはもうなかった。痛みを必死に圧し殺すような気配がする。暗闇の中でも分かるくらいの緊張が伝わってくる。
演技だとしたら、大した度胸だ、なんてほんの少し前の僕なら、そう思ったんだろうけど、今は何の疑いもなく、それを信じられた。
ああ、僕が初めてなんだ。そう思ったら、不思議なくらい笑えてきた。僕しか知らない、僕だけの女子。
功名を挙げた時みたく、心のまま、大きく叫びそうになる。
あり得ないくらいの高揚感に、気付けば、口づけを交わしていた。
押し付けるように、唇を重ねると、鼻が当たったので、少し角度を変えてみる。柔らかいな。こいつの体は、どこもかしこも柔らかい。噛り付いてみたくなって、口を大きく広げて、覆いつくした。ちゅっと音を立てて、離れては、また、噛り付く。それを何度か繰り返していたら、んはぁ、と妻が声を漏らす。それは、ひどく甘い感じがして、酔わされるように僕は、その声を吸い込むようにして、妻の口の中に舌を差し入れた。 一瞬、驚いたように、びくりと妻の体が震えたけど、後頭部をがっちりと固定して、更に口づけを深くすると、妻の舌がちろりと僕のそれを舐め取ってくる。僕は、夢中になって、それに応える。
襟元を割り広げられる感覚に、ちらりと下を見ると、いつの間にか、腰帯を緩めていたらしい。そして、僕を裸にすると、今度は、自分も一糸纏わぬ姿になった。
暗闇では、相変わらず、何が何だか、よく分からなかったけど、とにかく、触れたいと思った。
押し倒すようにして、妻の上に乗り掛かる。こんな風にして、重かないだろうか、と思うけれど、やめとこうとは思わない。だから、両手で自分を支えて、何とか体重がかからないようにしてみる。
二つの頂の内の片方にしゃぶりつく。弾力があり、柔らかかった。今まで、女子の胸に触った事がないので(あ、乳母は数にいれないとして)、まして、自分にはないから、一体どうなってるんだろと思ってたけれど、何、これ?!何でできてるの?柔らかすぎなんだけど。
もう口だけじゃ我慢できずに、遠慮なんてほっぽって、片手で体重を支えるようにして、空いた方の手で、胸の形が変わるくらい、ぐにっと握ってみる。骨、付いてないんだな。空気が入ってる訳でもないし。一体、どうやって膨らんでるんだろ?男のあそこも、骨はないが、こんなふにゃふにゃではないから、筋肉の一種かなと見なす事ができるけれど、こんな柔らかいだけのもの、僕の体にはなかったから、益々謎は深まるばかり。
けれど、今の僕に、その正体を知りたいと思う探求心は全くと言ってなかったので、初めて触れた感想までに留めて、ただその感触に浸る為だけに、口で、手で、思う存分弄る。
先端の蕾を舌で舐め回していくと、段々と丸く固くなっていって、妻の吐息が一層甘くなっていくから、くらくらする。
下へ下へと手を這わせていく。
肋骨の感触。これは、男と大差ないな。肋骨の縁を辿るようにして、下に指先を滑らせていくと、すっと指が飲み込まれる。
何、これ?胸の柔らかさに勝るとも劣らない感触に驚く。胸はあの通り、服を着てても、ふっくらとしてるのが見てとれたので、漠然と、柔らかそうだなと考えていたけれど、まさか、腹までこんなに柔らかいとは!てか、弾力はあまり感じられないから、柔らかさだけなら、こっちの方が上じゃない?腹って、こんなに柔らかいものなの?ふと、赤ら顔で酒飲みの知人の容姿を思い出すけれど、恰幅の良い体であっても、柔らかさとは別のものに思えた。
力を全く入れてない?いや、こんなに緊張してて、そんなはずない。きっと、根本的に、男とは体の作りが違うんだな。
臍の辺りから、上へと舌を這わせると、妻が僅かに震える。柔らかいな、すごく。寄せていた手で以て、さらにやわやわと脇腹に触れる。何だろう、こいつの体は一体何でできてるの?骨…あ、あった。肋骨に続くその確かな感触に、ほっとする。だって、こんな柔らかいものを思うままにしてしまったら、壊れちゃうんじゃないだろうかと思ったから。大丈夫、ちゃんと僕の知ってる人の形をしてる。妻にばれないように、ほっと息を吐く。
膝を割り開くと、先程触った蜜壺が現れた。その裂れ目に、つぅっと人差し指を這わせ、中の具合を確かめる。あれ?さっきと全然、変わってない気がする。
どうしたものか。
また、記憶を辿る。
指で激しく攻め立てるのも、良いが、口で貪るように吸い付くのも、女子には良いらしい。だったかな。論より証拠。やってみるしかない。
そっと頭を近付けると、ふんわりと甘い香りがする。蜜壺と言うくらいだから、甘い蜜を溜め込んでいるのかもしれない。それに誘われるようにして、僕は、そこに口を寄せた。ちろりと舐めてみると、やはり甘かった。
「あっ、いや、そんなところ、やめて」
そんな言葉がかけられるけれど、気にせず、食らい付くようにして、貪っていくと、びくんと妻が体をくねらせる。確かめるように、舌を這わせると、ぷくりとした部分が見つかる。そこをちゅっと強目に吸い上げると、ああ、と妻が悶える。ここが、例のあれなんだなとぼんやり認識する。歯を立てて、噛み付くと、面白いくらいの反応が返ってくる。一挙手一投足、こいつの全てを僕が支配しているような気がして、ぞくりと中心が粟立った。
今度は、舌をくっと中に滑り込ませる。甘い香りが際立った。
どこまでも柔らかく、香り立つような甘さ。
自分と同じ人とは、思えない甘美な体。
「お願い!やめて、いや」
あまりにも強い声に、はっと我に変える。
快楽ではないだろう大粒の涙が、妻の頬を伝っているらしかった。
「いや…だった?」
手探りの中、親指の腹で、涙を拭いてやる。
うん、うん、と頷く。
「湯あみをしていないのです。だから…汚いままなんだもの」
「汚い…?」
こんな甘い場所が汚い?そんなはずないだろうと思った。
「そんな風には思わないけど、嫌なら、やめておくよ」
ようするに、湯あみさえして、綺麗なら、問題ないって事かな。今度は、湯あみをした後にする事にしよう。

それから、自然に口づけを落としている自分に驚いた。どうやら、気付かない内に、夢にまで見た魅惑の世界に足を踏み入れているらしかった。柔らかな舌を掬い取るように絡ませて、深く口付けた。妻の荒くなる呼吸に、ひどく興奮する。くぐもった声が、甘かった。
さっきから、思考がまとまらない。酔っているような、でも、研ぎ澄まされているような不思議な感覚だった。やっぱり、例えようもない。唯一の感覚だ。
もう一度、中に指を入れてみる。すると、さっきほんのりと感じた先に指がぬっと入っていく。妻の体が一気に強張るけれど、誤魔化すように親指で萌芽を撫ぜながら、指の付け根まで入れてみる。
入ったけど、指一本でも、こんなにきつい。
これって、濡れてるのか?濡れてないのかな?
少しは解れたような。解れてないような。
もう挿れて良いのかな?ダメだろうか?
でも、何より、限界なんだよな。
僕が。
もう我慢できそうにない。早くこの柔らかな場所に己を突き立てたかった。
そうだよ、子種が欲しいとねだっているんだ、その願いを叶えてあげよう。
とか、論の立たない思考の中、そう一人納得すると、何の許可もなく、妻の両足を掴んで、大きく広げる。
非難の声が上がった気がするけど、もう挿れる事しか頭にない僕の耳には全然入ってこなかった。
そっと入り口にあてがうと、先端をくぷりと咥えさせた。緊張の走る体をたぶんなかば強引に押さえつけて、身を進めた。
狭い、けれど、柔らかく温かいその場所に、一気に夢中になる。今まで感じた事のない感覚が体を痺れさせる。きつい。けど、それが良いと感じる。
もう、本能の赴くまま、ぐいぐいと突き挿れていく。
きゅうきゅうに締め付けられる、ともすれば、僕を追い出そうとさえする感覚に、どうにかなりそうだった。その感覚をそのままにして、腰を振る。その動きに合わせて、貪るように妻の中が蠢く。
何ここ、すごい。
この素晴らしい快楽に、もうしばらく、身を委ねていたい。でも、挿れる前から、はち切れそうだった僕はそれを我慢できそうになかった。
叩き付けるようにして、数度激しく腰を震わせて、呆気ないほど簡単に、僕は自分を手放した。
それから、突如、息を調えるのも、面倒なくらいの睡魔が訪れる。
とりあえず、なんとか、だらりとなったものを引き抜くと、ちっとも合わない焦点で、妻を見る。
何か言うべきだろうか?
けれど、ただもうひたすら眠かった。
何か言っている妻を腕の中に抱き寄せて、僕は、何日ぶりかの深い眠りについた。


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡


何かがみじろぐ気配で、夢の中からぼんやりと目を覚ました。腕の中にあるこの温かなものはなんだろう。ひどく甘い香りがする。誘われるようにして、それを胸一杯吸い込んだ。
「殿、寝ぼけておいでですか?」
自分以外の誰かの声に、意識が一気に覚醒する。ぼやけた視界が鮮明になる。
ほんの目と鼻の先に人の、いや、妻の顔があった。
「おはよう」
毎朝、妻の顔を見る度に言っている言葉を、なんだろう、もう反射的に口にして、違和感を感じる。あれ?今まで、こんな至近距離で、この言葉を口にした事はあったっけ?
そこまで考えから、一瞬にして、昨夜あった出来事の詳細までを思い出し、赤面する。
「おはようございます」
妻は、僕の赤い顔などお構いなしに、満足気な笑みを見せる。昨日知った、妻のこの笑顔は、底抜けに可愛い。
「体…そう!体は、平気?」
ぼんやりとした記憶しかないけれど、なんとなく、妻が泣いていたような気がした。いや、もう快楽万歳で、妻がどうだったとか全然記憶にないけれど、どう考えても、無理をさせた自覚がある。
「さあ?殿が片時も手放してくれないから、よく分からないわ」
困ったように笑みを返されて、はたと自分の腕を見て、慌てて、妻を解放する。僕、ずっと抱きしめたままだったのか。ふつりと記憶が途切れるくらい朝までぐっすりだったので、寝てる間の自分の事など分かろうはずがない。
「えと…ごめん」
「いいえ、すごく嬉しかったから、良いです」
なんて可愛い笑顔で、可愛い事を言うんだろう。一晩中なんて言わない、一日中だって抱いていてあげるとか、バカな事を思う。
どうしよう、また泣きそうだ。
「そう。それなら、良いんだ」
「体は…大丈夫そうです。少し痛むけれど」
「あ…その、ごめん」
「謝らないでください。そうお願いしたのは、他でもない私自身だもの」
嬉しそうに笑う妻の口調は、淡々としていて、僕ほどの恥じらいを見せてはくれなかった。でも、一方で、それもそうか、なんて、ほっとする自分がいた。
女子の体の事なんてよくわからないけれど、こいつが大丈夫と言うのだから、そう言う事にしておこう。
お互い、了解の上での行為な訳だし。何より、夫婦なんだし。
そんな風に、昨夜の自分の行いを正当化していると、同じように何かを考えていたらしかった妻が、僕をじっと見る。
「ですが、殿」
「なに?」
「今後は、もう少しゆっくりしてください」
「へ?」
え?何を言ってるの?何を言い出したの?
ゆっくり。
その言葉の指す意味が、昨夜の記憶をじんわりと思い起こさせる。でも、まさか、だよね?
「だって、早すぎて、何が何だか、私、わかりませんでした」
僕の想像に限りなく近い言葉を、僕を直と見つめて、妻は言った。
その恥ずかしげもなく告げられた言葉に、僕は絶句した。

僕は、早漏なのか!?

次≫≫■■■

inserted by FC2 system