戦国の花嫁■■■無声の慟哭34■


息の継ぎ目が分からない。頭の芯が、くらくらする。
それでも怯えずにいられたのは、その間中ずっと、背から回された隆綱殿の手が、私の二の腕辺りを優しく撫でてくれるのを感じたから。
無駄な力を少し抜くと、その私の意志を理解したのか、隆綱殿の方も力を弱めてくれる。それでもまだ強く感じられたけど、まるで、情熱的に求められてる気がして、懸命にそれらを受け入れる。
でも、息の限界はどうしようもなくて、段々と長くなる息継ぎの間隔に、私はとうとう意識が朦朧となる。
一瞬ぐらついた視界に、はっとすると、胡座をかいてるらしい隆綱殿の膝の上で抱き締められていた。
くらくらする頭は相変わらずで、息は信じられないくらい苦しい。くたりともたれ掛かる隆綱殿の胸板は、私ほどには弾んでいなかったけれど、ぴたりと寄せている耳からは、どくどくと駆け足気味の鼓動が聞こえる。
何の気はなしに、隆綱殿を見上げる。じっと私を見ていたらしかった飴色の瞳と、すぐにかち合う。それでも、隆綱殿も、私も、何も言わないで、隆綱殿は、いつものように私の頬を撫で続けていたら、おもむろに、抱き起こされて、視線の高さが合う。

「吸ってごらん」
甘く深い低音が、ずくりと下腹に響く。不規則に揺れる灯明が、差し伸ばされた隆綱殿の舌をより艶かしくさせる。
ちょっとばかり落ち着いた息では、何も考えられるわけもなく、さぁ、と再び促され、なんとなく、腰を浮かして、力の入らない腕を隆綱殿の肩に置く。こくりと喉を鳴らしてみたものの、どうしたものか、躊躇う。
吸うって…、もちろん息を吸えって事じゃなくて、やっぱり、こう言う事、だよね?
変わらず向けられる舌先を見つめてられなくなり、視線を泳がせる。その迷いを払拭させるかのように、隆綱殿は、浮かしたままだった私のお尻を腕ですくうように、がっちり支え直して、早くしろって感じで、体をさらに密着させると、自分の仕事はここまで、とばかりに、目を閉じてしまう。
こうまでされては逃れられるわけもなく、私もまた、絶対にしたくないと言う訳ではなくなっていたから、恐る恐る顔を近付けてみる。
舌先同士が、僅かに触れ合う。けれど、隆綱殿の舌はぴくりとも動かない。
一体、隆綱殿は、私に何をさせたいのか。これは、何のための布石なのか?そんな事が頭を過るけど、私に何かさせるのは、私を利用するためではなく、私のための事、…であるはず。本当に、邪魔だと思っているのなら、こんな事しないはず。もう頼れるのは、信じられるのは、隆綱殿だけだから、それさえも疑う事などできそうにもない。
一つ呼吸をして、さっきよりしっかりと舌先を着ける。
隆綱殿がするように、先だけを絡めてみると、それに応えて、隆綱殿も動いてくれるから、何でか、ほっとする。
でも、吸ってごらん、と言った通り、隆綱殿が主体になるつもりはないらしく、私の舌の動きに合わせて動くだけ。
もっと強くして欲しいのに…、そんなもどかしさが段々と募って、自然と隆綱殿の頬を両の手のひらで包み込んで、口づけを深くする。私が激しく舌を絡ませれば、そうしてくれるようになって、私ほどではないけれど、徐々に隆綱殿の息遣いが荒いものになるのを感じると、お腹の奥の熱が高まっていく。
その感覚に身を委ねたままでいると、するりと、背に回されていた隆綱殿の手が、私の足の付け根を覆い、ぐにゃりぐにゃりと蠢くから、びくりと体を震わせる。触られてもいないのに泥濘んでいたそこは、その動きに引きつる事なく滑らかに形を変え、奥にある花芽をじわじわと刺激する。
割れ目に埋まってく指は、迷う事なく水を湛える場所を見つけて、何の抵抗を感じさせる事もなく、すっとその内へ入り込んでいった。
差し入れられてるのが、お尻の方からなので、身を退こうにも、腕が邪魔して、どうにもならない上、いつもと違う角度だからか、感じた事のない熱のようなものがずくずくと生まれる。
そうこうする内に、口づけなのか、隆綱殿の手がたてるものなのか、どちらとも判別のつかない水音が、羞恥心を一層煽る。
「っ…、やっ、ン!」
指の刺激に耐えきれず、口づけをほどいて、快感に首をすくめると、顎の線を舌先ですうっと舐め上げられる。そのぞわっとした感覚に、首を捩るけど大した隙間ができるはずもなく、すぐに顔を寄せられてしまう。耳たぶをかぷりと食いつかれ、舌先で転がされる。より近く聞こえるようになった水音が、もう何の音なのかとか関係なくなって、ただただ体を熱くさせるものに変わる。
剥かれた萌芽を数本の指が絶え間なく撫で付ける。その力が段々と強まってきて、意志とは関係なく動く腰。でも、中に深く差し込まれている親指と、背から回されている腕とで、あまり自由にはならない。あちらへこちらへと反射的に動く腰が、偶然、中の良い場所を見つける。
思わず呻いた声色に、隆綱殿の動きが止まる。
「そこ、ですか?」
何が、そこ、なんでしょう?などと、しらばっくれられるほどの理性は残ってなかったから、ぎょっとして隆綱殿を見る。あんな分かりやすい反応すれば、誰だって分かりますよって表情だから、居たたまれない。
「私が知らない場所のようでしたね」
そうだろうか?
て言うか、隆綱殿は、一つ一つ覚えてるって言うの?
あまりの恥ずかしさに、口をぱくぱくさせるしかない。
「姫の大事な場所ですからね…。扱うものとしては、万全を期すため、網羅しておきたいと思うものでしょう?」
想像を絶する言葉に、あんぐりと口を開けた。
その私の反応に満足したのか、隆綱殿は愉快そうに相好を崩すと、腕の力を強めて、体をより一層密着させてくる。
「ねぇ、姫」
突如、止まっていた付け根のとこの指が、琴を掻き鳴らすように、ばらりと動くから、一瞬戻りかけた平常心が、激情の波に押し流されてしまう。
「どこだか、私にも教えていただけませんか?」
もう一度ばらりと指が蠢く。先ほどより明確な意図を感じる指捌きに、また腰がひくりと跳ねる。
そうなってしまえば、転がる石と同じ、自分で止まる事などできなくなって、夢中で、さっきの場所を探し始めれば、見つかるのは、そう先の話でもなかった。
「そう。ここでしたか」
つうっと壁面を爪で引っ掻くようにしてなぞり、そこ、で止めると、無慈悲とも思えるくらいの力強さで、ぐりぐりと指をねじ込んでくる。
焼け爛れるんじゃないかってくらい、そこが熱い。ぎゅんとお腹が切なくなって、悲鳴のような呻き声をあげる。
「教えてくださって、ありがとうございます。…しっかり覚えておきますね」
と言うような事を言われたようだけれど、言葉を理解する余裕がない私は、高みに登らされる予兆に震えるのみ。もう隆綱殿の指一本だけしか感じられなくなって…、と言うところで、その指の力が、ふっと弱められてしまう。
置いてけぼりにされたような気持ちで、恨めし気に隆綱殿を見てしまう。
「私は、ばっちり覚えましたから、姫も覚えましょうか?」
そんなアホな事!と、正常な思考をしてたら、間違いなく、そう言ったに違いない。でも、まだまだ本能の奈落へと転がり続けていた私は、その勢いで以て、そこにやんわりと充てられていた指目掛けて、ぐいっと押し付けてみる。
予想以上の鋭利さが全身に突き刺さるかのようだった。
「上手ですね。ほら、そのまま最後までしてみましょうか?」
その言葉に促されたのか、もう疼く体を止められなかったのか、全神経を使って、自らを高みに引き上げる事に集中する。
不規則にでも、的確に、隆綱殿の指捌きも手伝ってか、そう時を置かずに、私は、張り詰めさせた全身を一気に弛緩させた。

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