戦国の花嫁■■■無声の慟哭49■


私は、どこに居たらいいの?

そんな弱気な発言をしたのは、いつの事?
その時から、ずっと隆綱殿は、ちょっとでも私の事を考えていてくれたのだと、今漸く知らされて、思わず、うるっとくる。
「隆綱殿…」
「少しばかり、差し出がましかったでしょうか?」
「いいえ!私、嬉しいです」
がばっと、隆綱殿の首に抱きついた。隆綱殿は、ちょっとよろめいたけれど、しっかりと私を抱え直してくれる。
「それは、よかった。考えた甲斐がありました」
「でも、一人では来ません」
「うん?」
「私の居る場所は、隆綱殿のそばです。大谷でもない、白河でもない、あなたのそばが、私の場所だから。折角用意してもらって、感謝はしていますけど、本当の私の居場所にはならないもの」
そう言った瞬間、抱え込まれてた腕の力が抜けて、がくんとずり落ちそうになったから、反射的に回していた首もとにしがみつくけれど、力が抜けたのは、ほんの一瞬の事だったらしく、私は落とされる事なく、また隆綱殿の腕に抱え直される。
さっき私が突然動いたって、平気だったのに、一体、どうしたと言うのだろうと、首を傾げるものの、隆綱殿は、そのままその場に立ち尽くすだけで、何を言おうともしない。
「…隆綱殿?」
「いや、すいません…でも、誉め殺すって、こう言う事を言うんですかね。一瞬、自分の生死が分からなくなりました」
「は?」
「本当に、若い娘さんの言う事は、何から何まで可愛らしくて、瑞々しくて、そして、眩い」
事の顛末を話すつもりはないのだろう。でも何か、またしても、若い娘さんを登場させたし、言葉の雰囲気からして、青臭い事を言ったと思われたらしいのは分かったので、その上に恥を塗りたくる気になれるはずもなく、それ以上突っ込まない事にする。
…おかしいな、私、ちゃんと思いを伝えたつもりだったのに。
「春秋を見てきた目には、ただ眩むばかりなはずなのに、それでも猶見続けたいと願う…。端から見れば、不相応で愚かとしか思えない願いであったとしても、やめる事など、もうできはしないんでしょうね」
何を言ってるの?と思っている間に落ちてきた口付けは、初めから、信じられないくらい濃厚だったから、あっという間に、言われた言葉さえも、思考の彼方に消えて行ってしまった。

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思いが通じ合ってると知ってる事は、一つ一つの口づけが、指先の動きが、喜びと愛しさに変わってしまうのかもしれない。
なぜ、こんな事をするのかとか、義務だからとか、隆綱殿は何を思っているのか?とあれこれ考えなくてもいい。
だって私も、したい、から。
そんな気持ちになれたのは、初めての事で、女子の性だけではない、言い様のない切なさが体を満たしていく。
隆綱殿も、そんな風に、私のからだの力が抜けているのに気付いているのか、いつものように、ゆっくり一つ一つ確かめながらって感じではなく、思うように思うがままに触れていてくれるようだった。予想のしにくい動きに、余計対応ができず、さらに私の思考に霞がかかって、ただもう体が熱い。
「あっっ、だめ、そこ、やっ、だめ!」
ほとんど力の入らない手で、隆綱殿を掴む。
前はこんなにあからさまに刺激される事はなかった。感じる場所を触られてても、私が心地好いくらい、感じて頭がぼぅっとするくらいしかなかったはず。隆綱殿の用意が調わなかった夜に、何度も意識を飛ばされた時でさえ、こんな激しくはなかった。あれは、意図的に、高みに登らされてる、と意識できるくらいだった。
でも、今は違う。逞しい肢体によって、私の体は力強く包み込こまれて、そして、徹底的に重点を置かれ、指や舌先が、私に触れられている。それはもう、攻められてるって言ってもいいくらいだと思った。感じるところを感じるままに、執拗に、急性なくらいに高められていく。
親指と舌が、ひっきりなしに入り口を出入りする。振動を与える指の動きと、ずっずと吸われる感じに、腰が浮く。そして、それをぐっと押さえつけられて、逃げ場のない熱が内に内に溜まっていく。
「隆綱殿…あぁ、や、もう」
命いっぱい力を込めて、隆綱殿を押し返すけれど、ぴくりとも動かないし、返事もしてくれない。さっきから、一度として、隆綱殿は言葉を発してない?
こんな隆綱殿、知らない。
なんで何も言ってくれないの?聞こえてないわけないのに、私の言う事に返事してくれないの?どうしてこんなにするの?
自分の最も恥ずかしい場所に埋められているその後頭部を見る。
本当に、これは、隆綱殿だろうか。熱で茹だる思考が、そう思ってるだけで、現実は、違う誰かに体を開いてるんじゃないだろうか?あの時みたいに、体と心がばらばらになってるんじゃないか?だから、私の言葉に返事もないんじゃないか?
「いや、隆綱殿!隆綱殿、お願い…返事、して!」
ぴたり、と動きが止むと、顔がこちらを向く。その顔には、驚きか、戸惑いか、そんな表情が宿っていた。
でも、確かに、知ってる顔。私の大好きな人。
「良かった…隆綱殿だ」
ぽろり、ぽろりと涙が溢れる。それを、隆綱殿の指がすくい取ると、困ったように微笑まれる。
「私が、怖いですか?」
ぴくりと肩を震わす。
ただ、本当に隆綱殿か分からなかっただけ。それを確認するために、声を荒げてしまった。それは、つまり、隆綱殿が怖かったんだろうか?よく分からないから、首を横に振った。でも、隆綱殿は苦笑すると、密着させていた体を離した。
「元々無理強いをするつもりはありませんので、姫、今日は、もうやめておきましょうか?」
「違うの…違います。怖くありません。だから」
やめないで、と抱きついた耳元に言う。自分からこんな事言うなんて、恥ずかしすぎるって思うけれど、この熱をないものになんてできない。でも、隆綱殿の腕は、私を抱き締め返さずに、たださ迷う。
面倒だなって、思ったのかな?そりゃ、思うよね?あんなにいい雰囲気で来てたのに、こんなのじゃ、興醒めだもん。
「姫、本当に…」
「大丈夫です。大丈夫だから」
離されるものかと、ぎゅっとしがみつく。

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