深窓の姫宮■■■21■


もう会いに来るなと言った姫宮と過ごした夜から、どれくらいの時が過ぎたのか。俺の頭の中は、姫宮への恋慕と自責の念。いつまでも煮えきらずにいた。

そこに春宮から呼び出され、手渡された文に、一瞬ここ最近ろくに出仕してなかったから、解任の書状かとも思ったけれど、そんな俺の予想とは全く異なる内容だった。

会いたい

涙に滲んだ文字は、そう短く記されていた。
誰から、などと考える間もなく、立ち上がった俺に、春宮が声をかけてくる。
「ちょうど返事を書き終えたところです。使いを頼めますか?」
にこりと笑うその表情は、何もかもお見通しってことらしい。これでまだ九つなのだから、目附の一人として、行く先安泰だなとか思う。
「その役、ありがたく拝任いたします」
わざとらしいくらい、恭しくその文を預かる。
「供に権左少将と右中将を呼んであります。牛車も好きにして構いません」
「お心遣い感謝いたします」
「これで不手際に終わったら、目も当てられないね?」
こうして年相応の笑顔を見せると、必ずと言っていいほど、減らず口を叩く。二三言い返してやろうかと思ったが、やめておく。
「期待は裏切りませんので、ご安心を」
礼を取り、座を辞すと、件の二人がやってくる。春宮から聞いているのだろう、権左少将は、俺から手紙を奪うと、さっさと牛車に乗り込んだ。
「持つべきものは、惜しまず鵲になってくれる上司と同僚だな?」
右中将は、そう言って、ぽんぽんと俺の肩を叩くと、急かすように俺を牛車に押し込んだ。
そうして、俺は、二度と訪れることはないはずだった姫宮の屋敷に、初めて、正門から入っていくことになった。文を携えた二人が、家人に招き入れられるのを牛車から見送る。人の気配がなくなると、そっと出て、まっすぐに姫宮の許へ向かった。おそらく、あの夜の部屋だろうと言う当ては外れていなかった。閉ざされた御簾の向こうに感じる気配を間違えるはずはない。

そうして、俺は、気が付けば姫宮を浚っていた。
当然、行きの牛車は帰った後だ。どうしたものかと考えていると、驚いたことに、いつも使っていた抜け道からすぐの場所に、牛車が控えていた。女性の牛車に、見覚えのある御者。何とも抜け目のない同僚達である。
牛車の揺れに疲れたのか、それとも泣き過ごし疲弊していたのか、そう進まない内に、姫宮は、俺の膝の上で寝てしまった。その涙に濡れた頬を拭う。その頬の柔らかさに思わず、唇を寄せる。
抱き寄せた体は暖かく、そして、甘い香りがした。

それから、何日か。
そんなことを気にすることもせず、ただ姫宮だけを求めている。
首筋に食いつくように唇を寄せた。
そんな事さえも感じるのか、姫宮は、鼻から抜けるような吐息を漏らす。

女の甘い香りと汗に混じり、僅かに梅花が香り、嬉しくなる。俺の香り、俺だけの姫宮。

今は只、姫宮だけを感じていたかった。
後の事など、その時に考えれば良い。
姫宮が愛しい。今は、それだけで十分だ。
「もう離さない」
思わず口に出てしまった呟きを聞き取った姫宮が、嬉しそうに微笑むと、その細い腕で、俺を抱き締める。
少し浮いた背中に手を差し込むと姫宮を抱き抱え、繋がったまま体を起こし、向かい合うような形で、姫宮を膝の上に座らせた。角度が変わり、当たる場所が変わったからだろう、逃れるように浮きかけた腰をがっちり掴んで、その腰を前後に動かしてやる。
「良人さっ…ま」
不安と快楽のない混ぜた瞳がこちらを見る。その瞳を反らさないまま、俺は、ゆっくりと腰に当てた手の動きをより強める。
俺はできる限り、柔和に笑うと、目の前で揺れる双房を揉みしだく。
時折、ぎゅっと胎の内で、俺を締め付けるそれが、生々しく、女を感じさせる。果てることなく、ずっとこうしていたい、心地よくて少しきつい締め付けが、俺の理性をないものにする。
少し乱暴に下から突き上げると、頤を反らし、胎をびくんびくんと震わせて、果てる。得も言われぬその艶のある声に、体の熱が一気に上昇する。
ぐちゃくちゃと音をたてて、腰を揺らし、彼女の胎に、その熱を解き放つ。
「あつい」
ぽつりと堪えかねるように、彼女が呟く。
…腰に来るな、その言葉。
とは、口に出しては言わなかった。
生まれは、似たようなものだけれど、俺と姫宮は、育ち方は全く違っている。
こんな言葉を吐かせといてなんだけど、姫宮には、いつまでも清らかでいて欲しかった。
そりゃ、色々言わせたい事とか、してほしい事とか、あるけれど…大神に仕えるはずだった彼女を、あまり汚すのもどうかなと。
そんな風に考えたのは、一瞬の事で、俺は、そのまま本能に流された。

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