深窓の姫宮■■■42■


そうして、俺は、無事、陣に顔を出すようになり、時を同じくして、じいさんも茶々を入れてくるようになった。そうなってくると、流石に、新院も良い顔をしなくなる。ますます、俺は針の莚になった。
こうも連日、嫌味を言われ続けると流石にへこたれそうになる。
だから、一日の終わりに、こうして姫宮と過ごす時間が、一層格別のものになった。
「今日は、何をしていたんですか?」
俺のことを話すと、どうしたって姫宮に心配をかけてしまう。姫宮も、あの日からは、俺を信じてくれているのか、諦めたのか、あえてその話題に触れることはない。
ただ笑って、今日もお勤め、お疲れさまでした、と出迎えてくれる。それだけで、今日あったムカムカが一気に吹き飛ぶんだから、頑張る甲斐もあるってもんだなと思う。
「今日は、庭先の梅を見てました」
「そういえば、そんな季節ですね」
「エツの産の紅梅が、ちょうど盛りで、とても綺麗に咲いてるわ」
そう言って、姫宮は、指を指し示した。
「一緒に見ませんか?」
嬉しそうに、うんと頷いた姫宮の手を取って、外に出た。
庇の間から、見えたのは、一本の紅梅。その赤さはよく際立っていて、薄曇りがちの冬の世界を鮮やかに見せている。
「なるほど、これは見事な梅ですね」
「私も、素敵だなと思いました。梅って、こんなにも大きな木なのですね」
「まさか。これが、特別大きいですよ」
「そうなの?」
「えぇ、普通は、これの半分くらいの高さに切り揃えて、三本から六本くらい植えると思いますよ」
そうなのね、と呟いて、姫宮は、梅を見る。
「梅って、冬の中、一人きりで、こんなにも鮮やかに咲くものなのって思ったの。でも、そうじゃなくて、この梅が特別だったのね」
「でも、きっと、姫宮が思ったような理由で、この梅は一本で花を咲かせる事になったんだと思いますよ」
「寂しくないのかしら?」
俺の目をまっすぐに見て、姫宮は言うから、一瞬、俺のことを言ってるのかと思った。
俺は寂しいんだろうか?でも、たとえ、孤立無援だろうと、寂しかろうと、俺は姫宮を手にいれたいなと思う。
「この梅も、ただ一人で花を咲かせても、こうして、美しい姫宮に、素敵だと言われれば、寂しさなんて気にならないのかもしれませんよ」
「この梅、も?」
「俺、も、一日の働きを労ってくれる可愛い姫宮がいれば、活力がメキメキ湧いてくるなと」
言って、しまったと思ったのは、姫宮の表情が変わってからで、俺って、浅慮だと思わずにはいられなかった。 覆水盆に返らず、、、言ってしまったことはどうしようもない。
「他意はありませんよ。本当に姫宮がいれば、頑張れるんです」

そろそろ限界だなと思った。
姫宮の悲しむ顔や心配する様を見たくない。
だから、動くことにした。

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