戦国の花嫁 ■■■01■


王城となり久しい京で、武士が、我が物顔でこの街を闊歩するようになってからも、また久しい。
その街の一角で、月夜に乗じてか、宴が今たけなわとでも言うように賑やかに行われていた。
勿論、武士たちの集いである。
揺らぐ灯明の中、わいわいとそれぞれの言いたい事を意味も成さず言い合っている。

「美しい姫を貰い受けたとか、羨ましい限りよ」
「あぁ、余語殿の姪子とか」
「それは、あの三国一の美姫、町の方の娘のことか?」
「そうじゃ、その末の姫だとか」
「幼少の頃だが、お見かけしたが、行く末中々の器量だったぞ」
「ほぅ、それはまた、得難い褒美だな」
「御館の覚えもめでたいと見える」
「わしはいやじゃな」
「なぜじゃ?女子は、若くて見目の良いのがよかろう」
「あの余語殿の姪子ぞ?きっと扱い辛いに決まっておる。のう?」

一同の視線が自分に集まる。
ようやく新郎が一様にして、こういう場に顔を出したがらない訳が分かった気がする。 花嫁が可愛いから、というよりも、この手の詮索を避けたいからに違いない。

その話題の花嫁の姿を頭に描く。
御館に勧められての縁談で、特に断る理由もなかった。
噂に違わぬ美しい姫である。
中でも、その瞳は格段の美しさがあった。そして、年の割には、落ち着いて物を言うのに、驚いた。
が、それらは、どれも、その姫の母を形容する言葉と同種のものであるから、わざわざ、他人に話すような事でもなかった。
まだ、会って十日にも満たないのだから、人となりさえ分かっていないのだ、何を話せと言うのか。

「どうなんじゃ、勿体ぶらずに言うてみろ」
上役が、徳利をぐっと差し出しながら、迫ってくる。杯を受け、一杯。
うまいな、と思う。
わしのことより、この酒の産地を知りたいとは思わないのか、とも。以前の自分なら、酒の味など気にも留めず、今の自分のような立場の者にばかり注意を向けていただろうが。
目を伏せ、ため息を一つ。 仕方ない、誰もが通る道じゃ、と己に言い聞かす。

「さすがは、町の方の姫君。武士の妻の鏡のような女子にございます」
「堅苦しいことは申すな。ここには、仲人の羽生殿もおられない。ありのままを申せ」
「まだ祝言より日も浅く、深い人となりなど…」
「それもそうか、では、寝所ではどうなんじゃ?」

後は思い出すにも、忍びない、男の会話だ。
詰まるところ、女子の人となりなど大した意味をなさないのであり、むしろ、そういった類の話を聞きたいだけなのだ。だから、ある意味、どこそこの女房は脱ぐとすごい、などと言う下世話な話となんら違いはないのだ。
祝言を上げて初めて、そのことに気づかされるとは…、つくづく己もただの男だったのだなと思わされる。



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