験者一行をもてなす ■■■22■

「そう言えば、マヤさんたちって、最近起きたヤマの騒動に巻き込まれて、こっちに来たんですよね?サンザン詣でって、準備してても、大変なのに」
「えぇ、少し甘く見ていました。この郷が見つからなかったら、と思うと…ね」
「でも、意外です。マヤさんって慎重そうに見えますけど。余程ヤマは荒れてたんですね」
「ヤマの一件は、小さい事とは言えませんが、十八ケ荘にまで知れ渡っているとは、思っていませんでした」
「お察しの通り、基本的に知ったときには蚊帳の外って事が多いですけど、事が事だからって、父を始め郷は騒然となったんですよ」
「へぇ。郷の誰かが情報収集を?」
「残念ながら、ヤマからの験者様からです。この時期にしてはあまりにも人が多いから、本当らしいって事になって…、そんな時に、えと、ヤマにいらした…」
「ミヤ、…正しくお呼びするなら心護法親王です」
「あぁ、その名前。そのミヤが、ヤマをお発ちになって、どうやらサンザンへ向かってるらしいって噂が上がった時には、もう大変だったんですよ?サンザンは危ないから、十八ケ荘にいらっしゃってくれればって、皆口々に言って。いくらなんでも、御身を危地に曝しているからって、こんな山里になんて来くるわけないって私は思うんですけど」
「感覚的に…、京のものでなければ、スメラギに対してそこまでの忠誠心ってないと思っていましたが。よほどの武家嫌いか何かですか?」
「そうですね、ここ最近の傾向からいけば、武家と言うより、御上が嫌いって感じです」
「御上…、曖昧な感じですね。でも、御上が嫌いなら、ミヤの御身を憂えなくても良いのでは?」
「そうなんですけど、その昔、戦に敗れ追われてきた武士の棟梁を匿って、見事に守り通した事を未だに誇りにしてるような郷なんです。…呆れちゃいますよね。だから、実際に租を取りに来る領主には反感を抱いて、それを命令してる御上には幻想を抱いてるんですよ」
「へぇ、そんな経緯があるとは、知りませんでした」
「嘘かホントか分からないくらいの事なんですよ。第一、有名だったら、その棟梁は捕まってるでしょうし」
「ふふ、そうかもしれれせんね」
マヤさんは、小馬鹿にするでもなく、笑みを見せる。信じてくれたんだろうか?自分で言っててどうかなと思ってしまっているから、理性的っぽいマヤさんの反応に驚かされる。
「でも、実際来ると思いますか?」
マヤさんにそう聞かれ、曖昧に笑みを浮かべた。きっと表情に出てたに違いない。
「さぁ…、でも、そのような話が伝わっているのだから、来たんじゃないですか?」
「いえ、そっちじゃなくて、ヤマを追われた…」
「ミヤですか?もしミヤが、さきほどの棟梁の話をご存じなら、その忠誠心を心強く思われて、頼まれるかもしれませんから…、あながちないとは言えませんね」
「つまり、匿う?」
「まぁ…私の意志はともかく、郷を挙げて、武力の支えにもならない忠誠心とか曖昧なものなら、それこそ要らないってくらいそのミヤに捧げると思いますよ」
「君の意志は?」
「私は、そうですね、出来うる限りお仕えしますよ」
「君は、それほど貴種に興味はないように感じられるんですが」
「きしゅ?」
「尊い種、と書きます。公卿までを指すとか、広く受領さえも指すとか、色々ですが、分かりやすく言えば、尊い血を受け継ぐ方々のこと。その頂点に立つのが、スメラギです」
「へぇ、そうなんですか。貴種か、そうですね、興味ないって言うか、自分に関わりのない事ですから…、強いて言うほど気になる存在ってわけでもないですね」
「なるほど」
そう言うと、マヤさんは、白湯を飲み干し、礼を言った。

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