戦国の花嫁■■■最果ての花嫁03■


男は、どうしたものかと考える。
エゾの娘のことである。
その場の勢いで、自分の許に置くことにしたものの、そのせいで、あらぬ噂が巻き起こったのには、閉口するしかない。いや、閉口なんてしてられないほど、からかわれるに至って、男は決意した。
「エンジュは、女だ!」
一同が集う食事の席で、我慢に耐えかねた男は、叫んだ。
「何を言い出すかと思えば、苦し紛れのいいわけか?」
「確かに、エンジュは、可愛い顔してるけどさ」
「さっさと認めればいいのに。何も恥ずべき事じゃないだろ?」
誰一人として、男の発言を信じないものだから、男は唖然とする。
「エンジュ、お前からも何とか言ってくれ」
そんなこと言われるとは思っていなかったのだろう、娘はビックリしたように焦げ茶の瞳を真ん丸にさせる。
「何かって言われても…でも、そんなに、私って女らしくないのかしら?」
ぽつりと呟いた言葉に、一同は笑う。
「エンジュまで。軍師をかばう必要なんてないぞ」
「別にかばってないですよ。私、女です。私の軽はずみな言動が、こんなにも大事になるとは思ってもみなくて…」
「エンジュ?」
「皆さん、信じてください。私、本当に女なんです」
娘の真剣さに、何人かは、信じ始めたようで、ざわざわとしだす。
「言うだけじゃ、信じられないですよね…脱ぎましょうか」
そう言って、胸元に手をかける娘を制したのは、男だった。
「ばっ…そこまでしなくていい」
「でも、軍師の矜持を傷つけてしまったんだもの。これくらいのことしないと、償いにならないよ」
脱ぐ、ダメだ、を繰り返す二人を見て、信じる気になったのか、一人が口を開いた。
「脱いで、エンジュが女だったなら、エンジュはとんでもない辱しめを受けたことになる。それは、ムツの男として許されないことだ」
その言葉に、一同は頷いた。
「エンジュは、女子だ。それでいいな」
「皆さん、ありがとうございます」
「礼には及ばないさ。最後の方は、軍師をからかいたかっただけだし」
「そうだよ。よく考えれば、あの無類の女好きが、男に目覚めるなんてあるわけないよな」
「でも、軍師と二人きりで過ごしてたんだろ?大丈夫だったかい?襲われたりしてない?」
「え?あー、はい」
「今後も、平気とは限らないから、良かったら、うちの幕舎においで」
「そんな言葉、信じちゃダメだよ。奴は狼だからね。その点、俺は紳士だから」
「何言ってんだよ!俺んとこが一番だよ」
どこまで本気なのか、やいのやいのと騒ぎ始めた一同に、娘は戸惑い、男を見た。
「エンジュは、俺のとこに置く」
えー、なんでだよ!とかヤジが飛ぶが、怯む男ではない。
「これは、軍師の決定だから」
そう言って、エンジュの手を取り、食事の場から去っていった。

「女だとわかれば、手のひら返しやがって。なんだよ、あいつら」
「でも、よかったね。これで、もう男が好きだなんて言う人いなくなるよ」
あぁ、と男は短く返事をすると、じっと娘を凝視する。
「絶対、俺が守るから」
「うん?ありがとう」

≫次へ■■■

inserted by FC2 system