深窓の姫宮■■■43■


実際に、どう動くべきかと考えを巡らせる。
やはり、今の立場を利用して、宮中において、孤立無援になって、何らかの失態を犯すのが、手っ取り早い。
まずは、じいさんには、幕を引いてもらわないと、と言うことで、じいさんに、今月は父上の命日だから、父上が好まれたウミの国を巡られてはどうかと進言した。
隠居して以来、道を厚く信仰してるじいさんが、却下するわけもなかった。
そして、一人になった俺だったが、新院にたてつこうとした矢先に、またしても、先手を取られる。
手回しの良いこと良いこと…。
見る間に、俺は、窮地に立たされた。

理由は、至って些細な事だ。
新院の御前で、やるべき作法を怠った。それを見咎めた新院の側近が、口を大にして言い、これは新院を軽んじる行いだと主張する。それに追随する者が後をたたず、一気に俺は四面楚歌になった。
予想していた範疇とは言え、一歩駒の進み方を誤れば姫宮を失うかもしれない状況でもある。
背筋に嫌な汗が伝う。
どうでるべきかと口を開きかけた時、帝が仲裁に入った。
「新院への礼は確かに欠いてはならぬこと。さりとて、徳を以て世を治める身としては、未熟者の非礼を許さないのは、また不徳ではないか」
俺を擁護するような発言に、一同がざわめく。
「そうは言っても、非礼は非礼である。何ぞ処罰せねばならぬわな」
俺の方を見て、一瞬にやりと口許の形を変えた、帝の心中をどう計ったものか。
「礼を欠いた者に陣の座に就く資格はないでしょう」
「陣にいるべきではありません」
「春宮を導く立場と言うのも、一度見直されてはいかがでしょうか」
等々、関を切ったかの如く次から次へ、湧いてくる発言に、俺は、目を丸くする。
「朕の思うところによると、西国の司に処すのが妥当であるのだが…どうか?」
驚いたのは、俺だけじゃなかったらしい。どよめきが、一層高まった。
西国の司、それは、役職ばかりの位で、花の洛中より遥か遠い地への流罪と同等であり、司とは言え、誰も望まない位である。俺としては、最善とも言える処罰だった。
邪魔する者がいない西の大地。二人きりの世界。
想像するだけで、たまらない気持ちになる。
「帝の寛大な処分、ありがたく受けさせていただきたく思います」
善は急げ、これ以上の助けは得られないだろう。
「そうか。しっかりと反省するが良い」
そう言うと帝を始め、新院も機嫌良く、退出された。
俺も、ざわめいて混乱気味の場内から、早々に出た。
向かうのは、もちろん、愛しい姫宮の許。

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